シアター・オリンピックス観劇記 #01 Ayame−鈴木大治


巴蜀芸術団 『美少女・聶小倩』 グランシップ中ホール 4月17日



 いやー、こりゃあ面白いや。物語そのものはたわいのない話だけどさ。実に明るい怪異談。いいよ川劇。ハイトーンの歌声がたまんない。おおらかと言うか脳天気というか、良くも悪くも大衆娯楽なんだね。
 でもさ、日本の能なんかも外国人から見ればこんな風なのかな。もごもごとなんか訳判んない声で台詞を喋ってるのを見て、あはは、ばっかでェ、とかさ。
 見せ場がたっぷりあるのがいいね。カンフー映画ばりの殺陣なんか見ごたえあるもん。「変瞼」って言うんですか、俳優がつけている仮面が、顔をぶんと振るたびに次々に変わってゆく。五回ぐらい変化してさ、あれは本当に驚いた。仕掛けは門外不出の最高機密らしいよ。それから吹き消された蝋燭の炎が、俳優が手を近づけると再び灯ったり、亡霊役の女の子が手招きすると、その蝋燭がつつーっと移動したり、いろんな仕掛けが山盛りだった。そうそう、火吹きも演ったんだけど、これが吹いたアルコールや油に着火させているんじゃなくて、どうも口の中にバーナーのようなものを含んでいたみたいだった。

 ところでこれは中国四川の伝統演劇らしいんだけど、ここでいう「伝統」って何だろうね。例えば亡霊が両手を前に突き出して、ぴょんぴょん跳ねながら進む。これって香港映画でおなじみの「キョンシー」の動きでしょ。ああ、「キョンシー」はこうした演劇をモデルにしているんだなって最初は思った。でもそのうち、待てよ、この芝居の方が映画を引用しているんじゃないかって気になってきたんだ。
 終盤、悪霊たちが主人公に復讐するために殴り込みをかける場面があるんだけど、その時の悪霊たちの衣装がどうも「忠臣蔵」なんだよね。確信はないけど、すごく似てる。似てるけど全然違う。違うっていう意味はさ、もしこれが「忠臣蔵」を模しているとしたら、外国人から見た「忠臣蔵」になっちゃってるんだよ。ほら、西欧人が描く日本の絵ってなんか変でしょ、中国とベトナムと日本が混ざっちゃったりしてさ。描いた本人は日本のつもりでも、全然違っちゃってるじゃん。あれなんだよ。
 ぼくの推測どうりだとしたら、それは「忠臣蔵」のパロディなんだけど、似てないもんだからマジんなっちゃってる。つまり、意匠ってのは引用されて・盗まれて・再利用されて、コピーを繰り返されてゆくうちに、いつの間にかオリジナルとは似ても似つかぬ別物に変質してしまうんだね。コピーがオリジナルに転位しちゃう。
 だからさ、この演劇が伝統的なものなんだって思っちゃうと、面白さを見落とす事になるんじゃないかと思うよ。

 ちょっと気になるのは、群舞の振りが合っていなかったり、たまにジャグリングをミスしたりするところだな。レベル低い奴連れてきて、経費安くあげてんじゃないか、と意地悪なことも思っちゃった。

 ああ、そうそう、悪霊の親玉が道師に左腕を切り落とされちゃって、それを右手にくっつけちゃうのかな、とにかく右腕がビヨーンと3mぐらい伸びちゃう。それ見て『西遊妖猿伝』、思い出した。どうでもいいことだけどね。





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