シアター・オリンピックス観劇記 #10 Ayame−鈴木大治

愛すること、耐えること。そして希望すること。
希望の神が、それ自身の残骸の中から
新たなものをつくりだすまで。
───────シェリー

トニー・ハリソン 炎と詩 『プロメテウス』 舞台芸術公園野外劇場「有度」 5月15日


□えー、映画なのかよー、実演なし?、ってんでちょっと腰が引けた状態で観てたんだけど、いや、面白かったね。いくつものレベルで「読み」が可能な映画である。例えば「プロメテウス」と言う場合と「プロ−メテウス」と言う場合の違い。プロメテウスは人間を土から作り、神から火を盗んで人間に与えた。ラテン派生語で「プロ」は「前」、「メテウス」は「考える」。象徴と隠喩と暗号に満ちた映像詩。□物語の始まりはイギリスのヨークシャー。ぼくはちょうど昨日から、ヨークシャーで起きた神秘的な事件に関する本を読み始めたところで、それからヨークシャーという場所にいささか個人的に思い入れがあるものだから、なにか「つながった」感じがあった。□これは神に反逆する人々の物語。神から逃亡し、自由を求める人間の物語。アイスキュロスのギリシア悲劇、プロメテウスの物語が現在も継続されているという構想である。□ロードムービーの味もある。「火」をキーワードにヨーロッパの都市を旅する。といってもそれはドレスデンであり、アウシュビッツであり、火によって破壊され、人々が虐殺された記憶を持った場所である。□巨大な黄金のプロメテウス像がトレーラーで疾走し、人形と化した女(巫女?)たちを乗せた台船が、セイレーンのごとき歌声を響かせながら、川づたいにヨーロッパを移動して行く映像は圧巻。□詩人の直感は現在のヨーロッパの状況を見事に予見している。すなわちNATOによるユーゴスラビアの空爆。映画の中でミロシェビッチは実名で言及される。ただごとではない。□ほとんどの台詞が韻をふんでいるようなんだけど、それを理解する英語力がなくて残念だ。□あ、これはホントに余談かもしれないけど、字幕でちゃんと「オマンコ」って翻訳してくれたのは嬉しかったな。詩人トニー・ハリソンが要求したとみた。□まいっちゃったのは、その日は浅草の三社祭だから、三社の浴衣で観に行けって神託があったんだ。それで真夏の格好で観に行ったんだけど、寒いのなんのって。火がモチーフの映画だからさ、映像の中では炎が揺らめいてる。あの火が欲しいって切に願った。□そうしたら映画の終わりで、ドカンと本物の火がついて、映写スクリーンが燃え上がった。前から二列目の席で観ていたんだけど、その暖かさといったら、思わず讃えちゃったよ、プロメテウスを。炎の中から映画に出演していた少年が飛び出してきて、映画の中でも唱えていた詩を朗読。テーマはハリソンがパンフレットに引用していたシェリーの言葉に要約されている。たぶん。


今日の御挨拶  美濃和哥さん(歌人)/木村幸男さん(映画狂)
今日の告白  小山史野さん(SPAC)「小山さん、俺、ファンです!」言っちゃった。カチカチ山にて

▲back